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9年毎に水を汲みに来るお客様

私の留守に1本の宿泊予約電話が入った。「9年前に一人で泊まったものです」という内容だった。私はすぐに「その方は水を汲みにきた方だ」とピンと来た。私がそう言ったら電話を受けたかみさんも「あ、そうかもしれない」と頷いた。
その方は9年ごとに八ケ岳に来られる方で、もう80歳近い。9年毎に八ケ岳に来ては水を汲んで帰られる。なぜ9年毎かというと「九星」の考え方に由来する。「九星」とは五黄土星や一白水星といった暦上の信心のこと。3×3の定位盤というものがあり、9年に1度盤の中心に自分の星が回座する。その年に自分の恵方である方角から「水」を汲んでくると人生に良いという信仰(?)がある(らしい)。
その方は何十年も前から八ケ岳の三分一湧水にお水汲みに来ていたが、たまたま9年前に我家を見つけて泊まり、大変快適だったので今年、9年ぶりに御予約下さったということだった。
この信心そのものは何ら奇異ではなく、不思議な話でもない。我家にはそういうことで泊まりにくる方が他に2名ほどいらっしゃる。しかしその方が最初に我家に来られた9年前からさらに遡ること数年前のある夜、突然当館に来られた一人の老婆の行動は相当奇異だった。
その方はタクシーを飛ばして22:00過ぎに到着した。朝突然電話予約が入り「今晩泊まらせてください」というお客様だった。随分遅い到着なのですぐお休みになるのかと思いきや、「懐中電灯とビニール袋とスコップを貸してください」というじゃありませんか!? もう真夜中ですよ。「タクシーを待たせてあるので、すぐにでかけなくちゃ」とおっしゃる。玄関先には先ほどのタクシーがまだ待機していた。
「遅くなるかもしれないのでもう寝てて結構です」とまでおっしゃる。老婆のあまりの迫力に、なぜスコップやビニール袋を?こんな時間にどこへ何しに?と思ったが尋ねるスキもあらず、老婆はタクシーに再び乗り込むや風のように闇の中に消えていったのでした。
まんじりともせず、眠られもせずあれこれ考えてみる・・・。深夜2時ごろタクシーの止まる音が聞こえ、老婆は無事に帰ってきた。なんだか「お帰りなさい」と出迎えるのがはばかられる雰囲気だった。
翌朝、朝食の時に思い切って聞いてみるとホホとワラって「土を採りに行ってきたのです」とこともなげにおっしゃる。「土を採りに?」「またなんでそんなことを?」と聞くと九星について教えてくれた。自分は今年この場所の土を掘って採取し、持ち帰らなければならないこと、その時間は指定されており自分の自由な時間に採ってはならないこと、その時その行為を誰にも見られてはいけないこと、などなど、それは私が初めて聞くような話ばかりだった。
その土をどうするのかと聞くと、庭に撒いたり植木鉢に入れたりするそうで、それはあんまり奇異ではなかった・・・。
良く聞けば私にも理解できる信心からくる行為だったので安心した。が、驚いたのはタクシーの運転手だった。
実はお客様が帰られた日の午後、そのタクシーの運転手が我家に来た。「ペアハットさん、大丈夫ですか、何か変ったことありませんか」というのだった。「なに?」と聞くと「いや、昨日のお客さん、なんかヘンじゃなかった?」と不安顔。何があったの?とワザと知らん振りして聞くと「いや~怖かったのなんの」と語り始めた。「だってあんな時間にスコップとブニール袋と懐中電灯を持って、山の中に行くんですよ」「昼間に下見していたらしくあっち曲がれこっち行けと、どんどん山の奥に入っていくんですよ」「幾つもお墓のそばを通りすぎて、あるカーブの前で止まれというんです。目の前にお墓があって、奥は林が続いていて・・・」「そこで待っててくれといわれて、お婆さんを降ろしましたが、ライトの中にビニール袋とスコップを持ったお婆さんがよろよろ浮かび上がって、不意に角を曲がって消えて行くんですよ! なんですかあれは!!いやあ怖かった。しばらく待っていたら向こうから懐中電灯の明かりがチラチラ見え初めて、お婆さんが髪振り乱して帰ってきたんですが、手にぶら下げたビニール袋は何が入っているのかズッシリと重そうで、スコップは汚れているし、いや~もう生きた心地しなかったです・・・。何も聞かずにお送りしましたが、あれからどうしました?」と物凄く怖そうにしゃべった。
アハハ、私はもう知っているので怖くなかったが、そうでしょうそうでしょう。怖かっただろうなあ。きっとタクシー仲間では話題になっているに違いない。私はあえて真相を語らず、タクシー伝説の一つとして広まることを期待した。
その話は伝説にならなかったようだが、現在も、土や水を採りに来る信心はさかんに行なわれていて、特に三分一湧水に行くと年中それらしき人を見かける。
昨晩泊まってくださった女性に件の「深夜に土を掘る老婆」の話をしたら笑って「そうね、水じゃなくて土の人もいるのよ。土は大変なのよ、いろいろ決まりが難しくて。他人に見られちゃダメだとか、土も表面じゃなくて、少し掘った土じゃなきゃダメだとか・・」
「私もね、水をもう何十年もやってますが、それによって私の人生がよくなったかといわれると、計れないしね・・・」「もう私も又9年後に来たってどうしようもない年だから、これからは水に関係なくまた遊びにくるわ」としみじみ語ってくださった。
それにしてもその方は9年前に我家にきた時のことを鮮明に覚えていらして、どこに立って何を話したか、食堂でのお互いの立ち位置や会話内容まで覚えているのにビックリした。「ご主人はそのときよりいくらかふっくらされましたね、良い歳のとり方をされているなぁと感じます」とおっしゃってくれたのは嬉しかった。「奥さんは相変わらず健康そうで」とおっしゃったのには笑ったが、なかなか的確なコメントだった。
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コメント

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さすがに宿をやっていると、いろんな客が来るんですねぇ。

あ、ペンション前にテントを張る中年もそうですね・・・(^^;)

そりゃ不思議な体験と言うか、タクシーの運転手さんも聞けばよかったのに~(笑)。内緒にしなくちゃいけないことではないんですよね?
世の中いろいろ楽しいですね~。

私も同類ですかね?

面白い話で、楽しく読ませていただきました。私も2~3年こどに宿泊させていただいていますから、同類項に含まれるでしょうね。また伺って、話をしてみたいです。事前に予約いれますから、その時はよろしくお願いします。私は、将門の伝承地を訪ね歩くのが終わりましたので、こんどは太田道灌を訪ね歩いています。そんなこんなでいろいろと話をしたいですね。

お話を伺って・・・

 私は映画「八つ墓村」の老婆を思い出してしまいました。白い着物で深夜、鍾乳洞の中へ入ってゆくシーンは、演技とはいえ本当にこわかったです。

肉田様

当館前のテン場は冬も鋭意営業中です
おまちしてま~~す。

toshiさん

私、タクシードライバーにはとてもなれそうもありません。知らないヒトを後ろに乗せて夜中走るなんて~v-39

源六郎様

テーマを決めて旅するという意味では源六郎さんも土を採りに来たオバアサンも同じかもしれませんね。また楽しいお話を聞かせてください。

けーたさん

「白い着物」や「老婆」というのがポイントですね。
老爺や赤い着物ではズッコケるかも。
八つ墓村、そういえばまだ読んでいなかったです。読もうかなぁ、どうしようかなぁ・・・。